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先輩を見送ってから少し歩いて交番の前に差しかかると、さっくんは自転車のおばあちゃんに対応しているところだった。
(...さっくん、かっこいいな)
警察官の制服をばちっと着こなして、おばあちゃんににこやかに対応する笑顔は私の大好きなさっくんそのもの。
せっかくだし目黒先輩の話をしたいなと思ったけれど、おばあちゃんとの会話を邪魔しちゃいけない。あったかい気持ちで横を通りすぎる。
そこから少し進んだところで、「A〜!!」と後ろから聞き慣れた声が。
振り返れば、おばあちゃんとのお話が終わったのかさっくんが小走りで近づいてきて、
「どうだった?入学式」
「んー、なんかね、」
目黒先輩の顔が浮かぶ。ちょっとだけ恥ずかしかったけれど、さっくんには隠し事なんてすぐバレる。
うーん、でも恥ずかしい.......!
「...あの、そこまで一緒に帰ってきた先輩がいて」
「うぇえ?!すごいじゃん、それで?」
「それで.......」
言葉に詰まった私をしばらく見ていたかと思ったら、「あ」と大きな目をさらに開いて言い出す。
「まさか、好きになっちゃったとか〜?!」
「.......」
「え、マジで?」
「..........わかんない、けど」
「えええええええ?!?!ほんとに?!」
「わー!!叫んじゃダメ!!」
「ごめんごめん、でもそっかー。Aもついに初恋?」
「.......そう、なるのかな?」
「いいじゃーん、俺にもたくさん聞かせてよその話!」
初恋、かあ。
春は出会いの季節なんて言うし。
もしかしたら、新しい恋が始まるかも...?
でも、本当の初恋は。
「A?どした?」
「あ、ううん、なんでもない!じゃあね」
「はいはい、また来週ね!」
黙り込んだ私の顔を覗き込んで来たさっくんに手を振り、慌てて帰路につく。
いいの、いいの。
春は出会いの季節なんだから。
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作者名:灯莉 | 作成日時:2023年7月22日 2時